
退職を決意し、勇気を出して上司に伝えたのに、その後から急に職場の雰囲気が変わってしまった――。
無視されたり、陰口を言われたり、明らかに冷たい態度を取られたり。そんな辛い経験をしている看護師さんは、決してあなただけではありません。
看護師の職場は慢性的な人手不足や独特な人間関係があるため、退職を伝えた後に嫌がらせを受けるケースが少なくないのです。しかし、こうした嫌がらせは決して許されることではなく、法的に問題がある場合もあります。
この記事では、看護師が退職時に受けやすい嫌がらせの具体例や、それが違法かどうかの判断基準、そして実際に嫌がらせを受けたときの対処法について詳しく解説します。
あなたの心身を守りながら、前向きに次のステップへ進むための方法を一緒に考えていきましょう。
看護師が退職時に受けやすい嫌がらせとは?
退職を伝えた後、職場の雰囲気が一変してしまうことがあります。看護師特有の職場環境や人間関係の中で、どのような嫌がらせが起こりやすいのでしょうか。
具体的な事例を見ていきましょう。
無視・陰口・冷たい態度
退職を伝えた後、最も多く報告されるのが「無視」や「冷たい態度」です。
今まで普通に話していた同僚が急に話しかけてこなくなったり、挨拶をしても返事がなかったりすることがあります。また、聞こえるように「自分だけ逃げるつもりなんだ」「無責任だよね」といった陰口を言われることも。
こうした態度は、退職者に対する不満や、残される側の負担感から生まれることが多く、職場の雰囲気を悪化させ、退職者の精神的な負担を大きくする行為です。
業務に必要な情報を意図的に教えてもらえなくなったり、申し送りを無視されたりする場合は、業務妨害にもつながる深刻な問題です。
引き止めや退職理由の詮索
退職の意思を伝えると、しつこく引き止められたり、退職理由を何度も詮索されたりすることがあります。
「本当の理由を言って」「もっと詳しく教えて」と繰り返し聞かれたり、「そんな理由で辞めるなんておかしい」と否定されたりすることも。中には、プライベートな事情まで根掘り葉掘り聞かれるケースもあります。
また、「患者さんのことを考えていないのか」「みんな我慢して働いているのに」といった感情的な言葉で責められることもあります。こうした言葉は、退職者に罪悪感を植え付け、精神的に追い詰める行為です。
退職は労働者の正当な権利であり、詳細な理由を説明する義務はありません。「一身上の都合」で十分なのです。
シフトや業務での嫌がらせ
退職を伝えた後、明らかに不公平なシフトを組まれたり、業務上の嫌がらせを受けたりするケースもあります。
- 夜勤ばかり入れられる、または極端に勤務日数を減らされる
- 忙しい部署や大変な患者さんばかり担当させられる
- 休憩時間を取らせてもらえない
- 必要な業務の指示や情報を意図的に伝えられない
こうした行為は、退職者を精神的・身体的に追い詰め、「早く辞めさせよう」という意図が見える場合もあります。業務上の正当な理由がない不公平な扱いは、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
退職時の嫌がらせは違法?
退職を伝えた後に受ける嫌がらせは、単なる「職場の雰囲気」では済まされない場合があります。法的にどのように守られているのか、違法性の判断基準について見ていきましょう。
パワハラに該当するケース
厚生労働省が定める「職場におけるパワーハラスメント」は、以下の3つの要素をすべて満たすものとされています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
退職を伝えた後の嫌がらせは、これらの要素に該当する場合が多くあります。
労働基準法・労働契約法で守られる権利
退職者は、労働基準法や労働契約法によってさまざまな権利が守られています。
まず、労働基準法では、賃金の支払いや有給休暇の取得など、労働者の基本的な権利が保障されています。退職を理由に給与を減らされたり、有給休暇の取得を拒否されたりすることは違法です。
また、民法では、労働者は退職の自由が認められています。期間の定めのない雇用契約の場合、退職の申し出から2週間が経過すれば、会社の同意がなくても退職できます。
さらに、2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、事業主にパワハラ防止措置を講じることが義務付けられています。病院や施設は、退職者に対する嫌がらせを防止し、適切に対処する責任があるのです。
つまり、退職を伝えたからといって、不当な扱いを受ける理由はまったくありません。あなたには法的に守られた権利があり、嫌がらせは決して許されることではないのです。
嫌がらせを受けたときの対処法
実際に嫌がらせを受けてしまったとき、どのように対処すればよいのでしょうか。具体的な方法を、段階を追って解説していきます。
まずは記録を残す(日時・発言内容)
嫌がらせを受けたら、まず最初にすべきことは「記録を残す」ことです。
具体的には、以下の情報を詳細にメモしておきましょう。
- いつ(日時)
- どこで
- 誰から
- どのような言動や行為を受けたか
- そのとき自分がどう感じたか
- 周囲に目撃者がいたか
可能であれば、その場でスマートフォンにメモを取る、日記として記録する、音声を録音するなどの方法も有効です。メールやLINEなどの文面でのやり取りも、スクリーンショットを撮って保存しておきましょう。
記録は、後々労働基準監督署や弁護士に相談する際の重要な証拠となります。「これくらい大したことない」と思わず、できるだけ詳細に記録を残すことが大切です。
信頼できる上司や人事に相談する
記録を残した上で、まずは職場内で解決できないか試みましょう。
直属の上司からの嫌がらせでない場合は、上司に相談してみることが第一歩です。「退職を伝えた後、このような扱いを受けて困っています」と具体的に状況を説明しましょう。
また、人事部門や総務部門、看護部長など、より上位の管理者に相談することも有効です。大きな病院であれば、ハラスメント相談窓口が設置されている場合もあります。
相談する際は、感情的にならず、事実を淡々と伝えることがポイントです。先ほど記録したメモや証拠を持参すると、状況が伝わりやすくなります。

「言ってみても仕方ないかも」と諦めず、まずは信頼できる人に相談してみることが大切です。
解決しない場合は労基署や外部窓口に相談
職場内での相談で解決しない場合や、相談できる人がいない場合は、外部の相談窓口を利用しましょう。
労働基準監督署は、労働基準法違反や労働問題について相談できる公的機関です。賃金の未払いや不当な労働条件、ハラスメントなどについて相談でき、必要に応じて会社への指導を行ってくれます。
また、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」では、労働問題全般について無料で相談できます。専門の相談員が対応してくれるため、具体的な解決策を提案してもらえます。
これらの機関に相談する際は、これまでの経緯を整理し、記録したメモや証拠を持参すると、より具体的なアドバイスを受けることができます。
退職代行を利用してストレスなく辞める方法
職場での嫌がらせが深刻で、精神的な負担が大きい場合は、退職代行サービスの利用も有効な選択肢です。
退職代行サービスでは、あなたに代わって退職の手続きを行ってくれるため、職場の人と直接やり取りする必要がありません。嫌がらせを受けている状況で、さらにストレスを感じることなく退職できるのは大きなメリットです。
特に弁護士や労働組合が運営する退職代行サービスであれば、有給休暇の取得や未払い賃金の請求といった交渉も可能です。ハラスメントに対する慰謝料請求を検討している場合も、弁護士に相談できます。
退職代行について詳しく知りたい方は、「看護師向け退職代行サービスおすすめランキング9選!失敗しない選び方・比較・注意点」も参考にしてみてください。

自分の心身を守ることが最優先です。無理して我慢し続ける必要はありません。
円満退職を目指すための工夫
嫌がらせを受けている状況でも、できるだけトラブルを避けて退職したいと考える方は多いでしょう。完全に円満とはいかなくても、少しでもスムーズに退職するための工夫を紹介します。
引き継ぎを丁寧にしておく
退職時のトラブルを最小限に抑えるためには、業務の引き継ぎをしっかりと行うことが重要です。
引き継ぎを丁寧に行うことで、「無責任に辞める」という印象を避けることができます。担当している患者さんの情報、業務の手順、注意すべき点などを文書にまとめておくと良いでしょう。
引き継ぎ書を作成する際は、以下のような内容を含めると親切です。
- 担当患者の基本情報と注意点
- 定期的な業務の手順とタイミング
- よく使う書類の保管場所
- 関係部署との連絡方法
- 特記事項やトラブル時の対応
嫌がらせが深刻で引き継ぎすら困難な場合は、無理をする必要はありません。書面での引き継ぎ書のみを提出し、最小限の対応にとどめることも選択肢の一つです。
退職理由はシンプルに伝える
退職理由を詮索されたり、否定されたりすることを避けるためには、理由をシンプルに伝えることが大切です。
「一身上の都合」という表現で十分であり、詳細を説明する義務はありません。もし理由を聞かれても、「個人的な事情で」「家庭の都合で」といった簡潔な表現にとどめましょう。
前向きな理由(キャリアアップ、家族の事情、引っ越しなど)であれば、簡潔に説明することで理解を得やすくなる場合もあります。
何度も詮索された場合は、「すでにお伝えした通りです」と繰り返し、それ以上は答えないという姿勢も必要です。
退職の切り出し方について悩んでいる方は、「失敗しない!看護師の退職の切り出し方5ステップ|気まずくならない伝え方とは?」も参考にしてみてください。
感謝の言葉を伝え、トラブルを避ける
嫌がらせを受けていても、お世話になった方々への感謝の気持ちを伝えることで、最後の印象を良くすることができます。
退職の挨拶では、「お世話になりました」「ここで学んだことを次に活かします」といった前向きな言葉を選びましょう。不満や愚痴は一切口にせず、感謝の気持ちだけを伝えることがポイントです。
最終出勤日には、部署全体に向けてお菓子を配るという慣習もあります。これは必須ではありませんが、ささやかな感謝の気持ちを形にすることで、気まずさが和らぐこともあります。
退職時のお菓子については、「看護師退職時のおすすめお菓子7選と渡し方のマナー」を参考にしてみてください。
退職後のキャリアを考える
嫌がらせを受けて退職を決意したとき、「次の職場でも同じことが起こったらどうしよう」と不安に思う方もいるでしょう。しかし、適切な職場選びをすることで、より良い環境で働くことは十分に可能です。
人間関係が良い職場を選ぶコツ
次の職場を選ぶ際は、人間関係の良さを重視することが大切です。
面接や職場見学の際には、以下のポイントをチェックしてみましょう。
- スタッフ同士の会話や雰囲気はどうか
- 挨拶がきちんと交わされているか
- 笑顔で働いているスタッフがいるか
- 離職率はどのくらいか
- 新人教育やサポート体制は整っているか
また、口コミサイトや転職サイトのレビューも参考になります。ただし、個人の感想であることを念頭に置き、複数の情報源から総合的に判断しましょう。
職場の規模も考慮すべき点です。大規模病院では人間関係が希薄になりがちですが、小規模なクリニックでは密な関係が求められます。自分の性格や働き方に合った環境を選ぶことが重要です。
可能であれば、実際にその職場で働いている看護師の知り合いに話を聞いてみるのも有効な方法です。
転職エージェントを活用してブラック職場を回避する
転職活動では、看護師専門の転職エージェントを活用することで、ブラック職場を避けやすくなります。
転職エージェントのメリットは以下の通りです。
- 職場の内部事情や雰囲気を事前に教えてもらえる
- 自分の希望条件に合った職場を紹介してもらえる
- 給与や勤務条件の交渉を代行してくれる
- 履歴書や面接のサポートを受けられる
- 非公開求人にアクセスできる
特に、過去に退職者が出た理由や、職場の人間関係についての情報は、個人では得にくいものです。エージェントを通じて事前に把握することで、同じ失敗を繰り返すリスクを減らせます。
複数のエージェントに登録し、比較検討することもおすすめです。担当者との相性もあるため、自分に合ったサポートを受けられるエージェントを見つけましょう。
また、エージェントだけに頼らず、自分でも職場の情報を集め、納得のいく選択をすることが大切です。
まとめ|嫌がらせに負けず、自分を大切に次へ進もう
退職を伝えた後に嫌がらせを受けることは、決してあなたの責任ではありません。退職は労働者の正当な権利であり、それを理由に不当な扱いを受けることは許されないのです。
大切なのは、あなた自身の心身の健康です。嫌がらせに耐え続ける必要はありません。自分を守りながら、前向きに次のステップへ進んでください。
新しい職場で、もっと自分らしく働ける未来が、きっと待っています。
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Wrote this article この記事を書いた人
ぽー
看護師・保健師・養護教諭資格あり。 転職経験は3回で、現在はフリーランスとして活動中です。急性期から退院支援、外来などさまざまな部署で看護の仕事をしてきました。 子育てと仕事との両立に悩み、ライフステージの変化に応じて働き方を変えていった経緯があります。 働き方に悩む看護師が、より自分らしく働くために役立つ情報を発信していきます。