
中途採用で入職した看護師が「もう辞めたい」と感じることは決して珍しくありません。新しい環境に馴染めない、職場の雰囲気が合わない、想像していた仕事内容と違うなど、その理由は様々です。
仕事を辞める決断をするには、「せっかく転職したのにすぐ辞めるのは問題ないのか」「次の就職に影響はないのか」など、不安や迷いもあるでしょう。
この記事では、中途採用の看護師が退職を考える際のポイントや、次のステップに進むための具体的なアドバイスを紹介します。自分らしいキャリアを築くための参考にしてください。
中途採用の看護師でも「辞めたい」と思うのは普通?
日本看護協会の調査によると、2022年度の看護師の既卒採用者の離職率は年間16.6%でした。転職して間もない時期に「やっぱり合わない」「辞めたい」と感じることは、決して特別なことではありません。
転職して間もなくても辞めたくなる理由がある
中途採用で入職したばかりの看護師が辞めたいと感じる理由はさまざまです。
最も多いのは期待と現実のギャップです。求人情報と実際の職場環境や業務内容が異なることで、「こんなはずではなかった」という落胆を感じることがあります。
また、新しい職場の人間関係に馴染めないことも大きな要因です。特に長く勤めているスタッフが多い職場では、中途採用者が入りにくい雰囲気があることも少なくありません。「部外者」という感覚を抱き、孤独を感じる方もいるでしょう。
前職とは異なる診療科や業務内容への適応が難しいというケースもあります。例えば、急性期病院から慢性期病院へ、あるいはその逆のパターンでは、求められるスキルや業務のペースが大きく異なります。この違いに戸惑い、自信を失ってしまうこともあります。
中途採用者向けの研修やサポートが不十分な職場も多く、「即戦力」として期待されるプレッシャーは、中途採用の看護師特有の悩みと言えるでしょう。
「我慢が足りない」という考えの落とし穴
「もう少し頑張れば慣れるのでは?」「我慢が足りないのでは?」という思いに苦しむ方もいるでしょう。確かに新しい環境に慣れるには時間が必要ですが、無理な我慢はメンタルヘルスの悪化につながります。
1年程度過ぎても「毎日が苦痛」「体調を崩すほどのストレスがある」という状態が続くなら、環境を変えることも選択肢のひとつです。
看護師としての適性と、特定の職場との相性は別物です。自分の健康や幸福を犠牲にしてまで我慢する必要はないのです。
私はある職場で1ヶ月働いて「これは合わない」と感じました。でも、すぐ辞められず、結局4年間続けました。今思えば、もっと早く決断してもよかったです。
中途採用での退職にはどんな影響がある?
中途採用で入職してすぐに退職することで、次のキャリアにどのような影響があるのか気になる方も多いでしょう。実際のところを見ていきましょう。
転職活動で不利になること
結論から言うと、短期間での退職が必ずしも転職活動で大きく不利になるわけではありません。看護師は人材需要が高い職種です。適切な理由があれば、多くの医療機関は理解を示してくれます。
ただし、注意すべき点もあります。極端に短い就業期間(1ヶ月未満など)が複数回ある場合は、採用担当者に「すぐに辞めてしまうのでは」という懸念を抱かせる可能性があります。また、退職理由が曖昧で整理されていない場合も、面接でのアピールが難しくなるでしょう。
転職回数自体も見られますが、現在の医療現場では「看護師としての資質やスキル」「今後の意欲や姿勢」が重視される傾向にあります。看護師不足が続く現状では、「人柄」と「やる気」があれば、短期間の退職経験があっても採用されるケースは少なくありません。
履歴書・面接での伝え方のポイント
短期間での退職経験がある場合、次の転職活動では伝え方が重要です。
履歴書では、単に「一身上の都合」とするのではなく、「キャリアアップのため」「専門性を高めるため」など前向きな理由を簡潔に記載しましょう。
面接では、否定的な表現を避け、学びや気づきを中心に話すことが大切です。例えば「前職では看護の基本を学び、そこからさらに急性期看護に携わりたいと考えました」といった形で、経験を積極的に評価し、次につなげる姿勢を示しましょう。
退職理由については正直に、しかし建設的に伝えることがポイントです。前職の悪口や批判は避け、前向きな姿勢で話しましょう。
職歴が短いことでどう見られる?採用側の本音
採用担当者や看護管理者の多くは、職歴の内容や応募者の姿勢を総合的に判断しています。一回の短期退職なら、職場とのミスマッチと理解されることが多いでしょう。
ただし、複数回の短期退職がある場合には、「定着性」や「協調性」を懸念する面接官もいるかもしれません。
採用側も一人の人間です。率直さや誠実さ、そして何より「この職場で長く働きたい」という意欲を感じられれば、短い職歴があっても評価してくれることが多いでしょう。
転職の面接で、退職理由について詳しく質問されたことがあります。そのときは引っ越しと保育園の事情だったのですが、伝えたところ理解してもらえました。正直に話すことで、かえって信頼関係が生まれると感じました。
中途採用の看護師が職場を辞めたいときに確認しておくべきこと
退職を決断する前に、いくつかの点を冷静に確認しておくことで、後悔のない決断ができます。
退職理由を言語化する
漠然とした不満や不安を抱えているだけでは、次の職場でも同じ問題に直面する可能性があります。具体的に何が合わないのかを整理することが大切です。
効果的な方法の一つは、「なぜ」を5回繰り返すこと。例えば「人間関係がつらい」という漠然とした理由があれば、「なぜつらいのか」と自問します。「先輩からの指導が厳しい」という答えが出たら、さらに「なぜ厳しいと感じるのか」と掘り下げていきます。
このように原因を深堀りすることで、本当の問題点が見えてくることがあります。
また、環境要因と個人要因を分けて考えることも有効です。それぞれの要因を明確にすることで、「次の職場で気をつけるべきこと」が見えてきます。
- 環境要因:人員不足・教育体制の不備・ハラスメント など
- 個人要因:スキル不足・コミュニケーション課題・価値観の違い など
退職理由を明確にすることで、次の職場選びの基準も見えてきます。自分が大切にしたい価値観や働き方が明確になれば、次はより自分に合った環境を選べるでしょう。
今の職場に「改善の余地」があるか見極める
すぐに退職を決断する前に、現状を改善できる可能性があるか検討してみることも大切です。
可能な状況であれば、まずは上司や先輩に相談してみましょう。「業務に慣れるためのアドバイスが欲しい」「もう少し丁寧な指導をお願いできますか」など、具体的な要望を伝えることで、問題が改善することもあります。
また、配置転換の可能性も探ってみましょう。同じ病院内でも、部署によって雰囲気や業務内容は大きく異なります。夜勤免除や時短勤務などの働き方の変更も、体力的・精神的な負担を軽減する選択肢となるでしょう。
「辞めたあとにどうしたいか」を具体的に描く
退職を考える際は、「辞めたあと」の展望も同じくらい重要です。
まずは、ワークライフバランスを重視したいのか、キャリアアップを目指したいのか、専門性を追求したいのかなど、優先順位を考えてみましょう。価値観は人それぞれ異なりますし、ライフステージによっても変化します。今の自分にとって何が大切かを見つめ直すことが大切です。
次に、具体的な職場のイメージを描きます。病院、クリニック、訪問看護、企業など、看護師の活躍の場は多岐にわたります。診療科や部署についても、自分の適性や興味に合わせて検討してみてください。
「辞めたい」という気持ちだけでなく、「次に何をしたいか」を明確にすることで、退職という選択も前向きな一歩となるでしょう。
中途採用の看護師が退職時に気をつけたい注意点とマナー
退職を決断したら、円満に退職するためのマナーや手続きを押さえておきましょう。
辞めるタイミングは?
退職のタイミングを考える際には、就業規則を確認しましょう。法律上は2週間前の申し出でも退職は可能ですが、円満な退職を目指すなら規定に従うことをおすすめします。職場によってルールは異なります。
また、繁忙期は避けるようにしましょう。インフルエンザシーズンや年度末など、スタッフ全員が忙しい時期に退職を申し出ると、周囲に大きな負担をかけることになります。可能であれば、比較的落ち着いている時期を選ぶと良いでしょう。
中途採用ならではの配慮のポイント
中途採用ならではの配慮すべきポイントもいくつかあります。
まず、採用にかかったコストへの配慮です。短期間での退職は組織にとって損失となるため、お詫びの気持ちを伝えることも大切でしょう。
また、中途採用者は「即戦力」として期待されていることが多く、期待に応えられなかった申し訳なさを感じる方も少なくありません。しかし、ミスマッチは双方にとって不幸なことです。感謝の気持ちを具体的に伝えることで、円満な退職につながります。
退職代行という選択肢もある
人間関係のトラブルやハラスメントなどで直接退職を伝えることが難しい場合は、退職代行サービスの利用も選択肢のひとつです。
退職代行サービスとは、本人に代わって退職の意思を伝えるサービスで、弁護士が行うものと、一般企業が行うものがあります。費用は1.5〜5万円程度が相場となっています。
可能であれば通常の手続きで円満に退職することが望ましいですが、精神的な負担が大きい場合は、自分の健康を第一に考え、退職代行サービスを活用することも選択肢の一つとして考えてみてください。
退職代行サービスの選び方について詳しく知りたい方は、こちらもご参照ください!関連記事:「
【2025年】看護師向け退職代行サービスおすすめランキング9選!失敗しない選び方・比較・注意点 」
退職代行サービスを利用することで、精神的な負担が少なくなくなり、次の職場探しに集中できます。状況によっては有効な手段です。
転職を繰り返すことに不安がある人へ
「転職回数が多いと評価されないのでは?」「職を転々としているように見られるのでは?」と不安を抱える方も多いでしょう。ここからは、こうした不安に対する考え方をご紹介します。
「転職を繰り返す=悪いこと」という誤解
転職を繰り返すことは、必ずしもネガティブなことではありません。様々な医療機関や診療科での経験を積むことで、スキルの幅を広げられるというポジティブな側面もあります。
また、自分に合う環境を積極的に探している姿勢としても捉えられます。環境に流されず、自分で決断する姿勢は、むしろ主体性の表れとして評価されることもあります。
看護師の働き方は多様化しており、「ひとつの職場で長く働く」ことだけが評価される時代ではなくなっています。医療の専門性が高まる中、自分の適性や興味に合った分野を探すプロセスとして、転職を前向きに捉える視点も大切です。
自分の「働く軸」を持つことが大切
転職を繰り返す中で大切なのは、自分の「働く軸」を明確にすることです。
例えば、患者との関わりを重視したい、チーム医療の一員として協力することを大切にしたい、専門性の追求を目指したいなど、人によって大切にする価値観は異なります。
また、譲れない条件や環境も「働く軸」の一部です。ワークライフバランスを重視するのか、教育環境の充実を求めるのか、人間関係の良さを優先するのかなど、自分にとって欠かせない要素を明確にしておきましょう。
自分の軸を定めることで、面接での説明にも説得力が増します。自分の価値観や目標に基づいた選択であることを伝えれば、転職回数が多くても理解を得られることが多いでしょう。
「自分に合った職場」と出会うために意識したいこと
自分に合った職場を見つけるためには、徹底した情報収集が欠かせません。見学や職場体験を積極的に活用し、実際の雰囲気を肌で感じることが大切です。口コミだけでなく複数の情報源を確認し、多角的な視点で職場を評価することが理想的です。
また、これまでの職場で何が合わなかったのかを具体的に分析し、自分の強みや弱み、価値観を客観的に理解しておきましょう。自分自身を知ることで、相性の良い環境を見極める目も養われます。
中途採用でも、無理せず働ける場所はある
中途採用の看護師が退職を考えることは決して珍しくありません。大切なのは、自分の価値観や目標に合った職場で、無理なく働けることです。
漠然と「辞めたい」と思うのではなく、何が合わないのか、何を求めているのかを言語化することで、次の職場選びに活かすことができます。
看護師は、人の命と健康を支える仕事です。自分自身が健康で充実した状態でなければ、良い看護は提供できません。あなた自身のキャリアと健康を大切にして、理想の職場を見つけてください。
悩んでいる方も、自分の直感を大切に、一歩踏み出してみてください。
Wrote this article この記事を書いた人

ぽー
看護師・保健師・養護教諭資格あり。 転職経験は3回で、現在はフリーランスとして活動中です。急性期から退院支援、外来などさまざまな部署で看護の仕事をしてきました。 子育てと仕事との両立に悩み、ライフステージの変化に応じて働き方を変えていった経緯があります。 働き方に悩む看護師が、より自分らしく働くために役立つ情報を発信していきます。